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何処までも晴れた空の下



 地獄の最下層にそびえ立つ宮殿……万聖殿とは真逆の存在であるその建物は、貴金属と宝石を惜しげもなく使って壮麗に、そして絢爛に作られている。巨大な都市そのものともいえる宮殿には、魔王・ルシファーを長として、すべての悪魔が集っていた。万魔殿……悪魔のすべてが集う場所、と呼ばれる所以である。
 そして、その巨大な宮殿の一番上……擬似太陽が穏やかな光を投げかける空中庭園で、巨大な獣と小さな少女が戯れていた。


「…………わー……わんこに鎖骨がないって本当だったのねぇ…」

「……………………………犬じゃねぇ…狼だ…………………つーかこれセクハラだろ、馬鹿モリー」

「違うもん。解剖学的好奇心による生体観察だもん」


 萌え出たばかりの柔らかな芝生の上にいるのは、背中に一対の翼をもった狼だ。ごろりと芝生の上に寝転がりながら、半ば呆れたように鼻を鳴らして自身の腹に顔を埋める少女の好きなようにさせている。
 そんな不貞腐れたような狼の背中に腕を回している少女にしか見えない見えない悪魔王は、それはもう幸せそうに微笑んでいた。その陶酔ぶりときたら、闇色の毛玉と化した狼王の恨みがましい視線さえ気にならない程らしい。
 にへーっと弛み切った笑みを浮かべた少女――グレモリーの腕は、腕いっぱいに抱きしめた毛玉――もとい、マルコシアスの胸元をしきりにまさぐっている。本人がいくら『解剖学的見地』と言い張ろうとも、これでは確かに『セクハラ』と言われるのも無理はない状況である。
 ひとしきり狼の胸や背中…………ついでに腹毛やら胸毛やら尻尾やらをまさぐって……。納得したような顔のグレモリーが、ようやく掌の動きを止めた。……とはいえ、手のひらの動きは止まったものの、狼を抱きしめる腕の力が緩む気配はまるでない。どうやら解剖学的好奇心は満足したものの、少女は狼を開放する気はまるでないようだ。
 不服そうに鼻面に皺を寄せるマルコシアスの耳の付け根を指先で掻いてやりながら、グレモリーは一人で幾度も頷いている。だが…………どんなに優しく撫でられようと、どんなに心を尽して宥められようと……。『わんこ』扱いされた狼のプライドは、相当に傷ついてしまったものらしい。

 セクハラだセクハラだと主張してやまない狼に、悪魔王が唇を尖らせた次の瞬間……狼は、彼女を腹の上に乗せたまま、ぐるりと寝返りを打った。
 あまりに突然の狼の行動に、悪魔王の視界が目まぐるしく流転する。逃げる間もなく大きな身体の下敷きになったグレモリーの背中に衝撃が走り、木々の緑と宮殿の壁に切り取られた青空を背負った狼の顔が視界いっぱいに広がっていた。
 見慣れぬ風景と状況に、グレモリーの思考回路がほんの一瞬硬直する。そのわずかな隙を縫うかのように、抵抗のない身体に狼の舌が這わされた。
 その濡れたような生暖かい感触が、彼女の思考をようやく現実に引き戻す。
 ざらつく舌に体中を舐め上げられ、グレモリーはやっとのことで現状を理解できた。自分は、いつのまにか狼に押し倒されているのだ、と……。


「ひゃ、や……マルコシアス……やめ……ひうっ……!」

「喧しい、馬鹿主!人の気も知らねぇでベタベタ触りやがって……このくらい許容範囲だろ?」


 彼女よりも大きな狼の身体は、体重も彼女の倍くらいはあるのだろう。どんなにグレモリーがもがいても、圧し掛かる重さはまるで変わらない。改めて自身の上に圧し掛かる狼を見れば、その爪も牙も普通の獣よりも鋭いように思えた。
 大きな舌が少女の顔や耳、首や肩を舐め、鋭い牙が彼女の首や肩に軽く噛み付いてくる。それはまるで、じゃれ付いているようにも、愛撫しているようにも思えた。獣の姿でいるときは、獣としての本能が強く働いてしまうのかもしれない。
 肌を這う舌のくすぐったさに、狼に組み敷かれた少女が鈴を振るような笑い声を零す。時折身体をよじりながら、それでも顔に楽しげな笑みを浮かべ、グレモリーは自身の上に圧し掛かっている狼の鼻面を掌で抑えた。
 いつもであれば更なるスキンシップを求める狼も、邪魔が入ることなく主と触れ合える今は、それなりに満足しているらしい。グレモリーの手を振り払うこともなく、そのまま彼女の掌をべろりと舐め上げた。
 少女に覆いかぶさったまま、狼は彼女の柔らかな胸に顔を埋める。微かに甘い香りのするその胸は、昔と変わらず狼を受け止めてくれた。


「っ…ひゃっ……や、やだ、マルコシアス…………ちょ……苦しいの~~!!」

「お前の意見なんざ知らねぇよ。俺は、十二分に楽しいからな」

「私は楽しくないものー!!けもけもふこふこしたの抱っこしてるほうが楽しいもん~~~!!!!」

「あのな、馬鹿モリー。お前は忘れてるみたいだけどな……俺も男だからな。女に抱かれるよりは、女抱いてるほうが楽しいっつの」


 微妙に意味深な言葉を残しつつ……。前足で少女を押さえつけた狼の真っ赤な舌が、拗ねたように唇を尖らせるグレモリーの頬を、宥めるように舐め上げた。



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プロフィール

みやうち

Author:みやうち
いあ!母なる森の黒山羊よ!
いあ!父なる混沌の媒介よ!
北狄の地に眠る、醜く蠢く肉の塊にして、のたうつ太い腕と、滑りにくい靴を好む短い脚、粘液を滴らせる大きな口を持つ。
それは、しわがれた低い声で、呪詛と歓喜を詠うであろう。

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